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名古屋高等裁判所 昭和35年(う)900号 判決

被告人 西川原勝 外一名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人西川原勝の負担とする。

理由

大矢弁護人の被告人西川原勝のための控訴趣意中不法に公訴を受理したものであるという論旨について、

所論に鑑み記録を精査するに、被告人西川原の原判示第二の(一)の強姦未遂の所為が親告罪にかかり、被害者加藤絹代の法定代理人たる母酒井春江において同被告人を告訴したのが昭和三十五年二月十九日であることは所論のとおりであるが、右春江は犯人が同被告人であることを知つて即日告訴していることが記録上明であるから、その告訴の適法であることは言を俟たない。もつとも弁護人は告訴権者の告訴期間を規定している刑事訴訟法第二百三十五条第一項にいわゆる「犯人を知つた日」というのは犯人を知つた場合のみではなく、犯人を知りうべかりし場合をも包含すると主張しているけれども、犯人を知るというのは犯人の氏名を知るまでの必要はないが、犯人を特定しうる程度には現実に知ることが必要であつて、単に知り得べきであつたことをもつて足るものではない。けだし強姦罪の告訴は犯罪事実を申告して犯人の処罰を求めれば足ることはもとより所論のとおりであるけれども、告訴期間については、犯人が何人であるかということが告訴するか否かの意思決定をなす上において、きわめて重要な意味をもつものであるから、告訴をなしうる時期如何にはかかわりなく、また犯人を知りうべかりし日とも無関係に現実に犯人を特定しうる程度に知り得た日から法定の告訴期間が進行するものといわねばならぬ。所論は要するに、独自の見解であつて採用しがたい。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判官 小林登一 成田薫 布谷憲治)

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